かながわアートプレス
July 2008
芸術活動支援のページ
神奈川芸術劇場ってどんな劇場?(その1)
県では、2010年度のオープンを目指して、横浜市の山下町地区に、神奈川芸術劇場(以下、芸術劇場)の開設準備を進めています。芸術劇場の整備内容については、すでに本誌で4回にわたりハード面を中心にご紹介しましたが、今号から芸術劇場で何が行われようとしているのか、そして芸術劇場はどこに向かおうとしているのか、そんな気になる内容を3回シリーズでご紹介させていただきます。
創造型劇場とは?
 2007年5月15日発行の本誌76号「県立の新ホールの整備内容を紹介します(その1)」の冒頭で、芸術劇場の基本コンセプトについて紹介しています。そこでは「次の3つのテーマを満たす創造型劇場として整備します」として、

 〈1〉モノを「つくる」<芸術の創造>
 〈2〉人を「つくる」<人材の育成>
 〈3〉まちを「つくる」<賑わいの創出>

という3つの「つくる」をテーマとして挙げています。
 この3つの「つくる」を話題に話を進めていきますが、その前に何故、劇場の前にわざわざ“創造型”と付けて「創造型劇場として整備します」と言っているのか。それは、この芸術劇場はモノ(舞台芸術作品)を創るために整備するのですよ、ということを強調しているということなのです。別の言い方をすると、全国各地にある貸館業務主体のこれまでの公立文化施設とは、ひと味もふた味も違う役割を担う劇場であることを明確に打ち出しているというわけです。
 そのために、芸術劇場には作品を制作、上演するための専門スタッフが組織される必要があります。その組織がモノを「つくる」<芸術の創造>のミッション(使命)を実現するための原動力になっていきます。実は、すでにモノ創りのための青写真を描き始めています。ある程度準備が整った段階で、皆さんに、え!とか、わぁ!と思われるような話題を振りまいていきたいと、あれもこれもと検討していますので、楽しみにしていてください。
劇場の使われ方
 過去4回にわたり芸術劇場のハード面をご紹介してきましたが、このハードは前述の3つの「つくる」を実現するための施設整備に他なりません。
 芸術劇場のハード面の主要部分をもう一度おさらいしてみると次のとおりです。

 〈1〉メインホール(約1,300席)
 〈2〉大スタジオ(約400m2
 〈3〉中スタジオ(約230m2
 〈4〉小スタジオ(約140m2)×2室

 芸術劇場の特徴の一つは、どのスタジオも稽古利用だけに止まらず、本番上演が可能な仕様になっているということです(小スタジオ1室は除く)。大スタジオは小劇場(可動220席)になりますし、中スタジオや小スタジオも少人数編成の演劇、ダンスなどの上演が可能です。芸術劇場に行けば、いつもどこかで“何か面白いこと”をやっている、そんなワクワク感漂う劇場に育てていきたいと考えています。
 もう少し創造者・制作者サイドから制作プロセスを眺めてみます。例えばメインホールでミュージカル、あるいは大スタジオで演劇を上演する場合を想定すると、小スタジオで「本読み(稽古)」、その後、中または大スタジオで「立ち稽古」、そして本番会場で「通し稽古」、「本番」という理想的な段取りを組むことができます。  また、芸術劇場は県民ホールと一体的運営をすることになっています。県民ホールの主催・共催事業のメインは、大ホールはグランドオペラ、グランドバレエ、小ホールは室内楽等の上演であり、芸術劇場は、中規模ホールとしてミュージカル、演劇、ダンス等の上演に相応しい劇場として整備するものです。
 このように両施設の棲み分けを図っているのですが、芸術劇場は一方で、その補完機能を持ちあわせています。例えば、芸術劇場の大スタジオは県民ホール・大ホールの舞台とほぼ同じ大きさにしてありますので、県民ホールで上演されるグランドオペラなどの「立ち稽古」の場として大スタジオを使用することも可能となります。
 以上のように、両施設を有機的に活用し、効率的で効果的な運営に取り組むのも芸術劇場の特徴の一つと言えます。
 さらに、芸術劇場には、大道具・小道具などを自前で作り込むための美術製作室、効果音などを作る音響制作室、衣裳の製作や直しをする衣裳室など、作品創りに欠かせない劇場施設を整備していく予定です。
 芸術劇場は、じっくりとモノ創りに打ち込める環境とプロデュース機能をフル活用し、皆さんに魅力的な舞台芸術作品を提供していきたいと考えています。
創造活動の担い手
神奈川県民ホール「愛の白夜」より  さて、創造活動は劇場スタッフだけが担うのか。いや、そうではありません。それには多様なモノ創りのあり方があります。劇場スタッフが総力をあげて自主制作するものから、国内外の地域劇場や芸術団体と共同で作品創りをすることもありますし、提携して上演することもあります。また、地域の公共劇場として、地元の舞台芸術関係者と連携して作品創りをすることも芸術劇場の重要な役割となります。
 そして何よりも、作品に触れる皆さんの感動の声、批判の声、叱咤激励がより良い作品創りに欠かせない担い手と言えます。そうした地域社会との結び付きの中で芸術劇場が育まれていくことが、地域文化の創造につながると考えています。

 それでは、芸術劇場でどんな演目が上演されるのか、主要キャストは誰か、演出家は誰か、とても気になるところだと思いますが、それについては、今しばらくお待ちください。
 以上が、モノを「つくる」<芸術の創造>の概要になりますが、次号以降で、芸術劇場の貸館システムの特徴と、残りの2つの「つくる」について、話を進めたいと思います。(次号に続く)

神奈川県のアートボランティアの活動とその魅力〜公共ホールとの協働から〜
美しい自然に恵まれた湘南・東海道の間の宿場、二宮町。
この町にはボランティアスタッフが主体的に公演の実施に参加するユニークな公共ホールがあります。
二宮町生涯学習センター「ラディアン」でのボランティアとの取り組みをご紹介します。
催し物当日、ボランティアスタッフがラディアンに集合します!
スタッフミーティングの様子  去る3月14日から3日間、ラディアン内のホールで「親指こぞう〜ブケッティーノ」(原作:シャルル・ペロー、主演:ともさと衣)が開催され、ラディアンのボランティアスタッフはホール業務の多くを担って活躍しました。
 ラディアンが神奈川県民ホールと共催で実施したこのお芝居は、子どもも大人も劇場内の特設小屋に設置されたベッドで寝そべりながら、女優さんのひとり語りを聴くというもの。客席がベッドなので当然毎回の終演後は、シーツを交換するなどベッドメイクの作業が発生します。また、多くの子どもたちが見に来るお芝居ですから、入場前の列整理や終演後のアンケート回収など、意外と手間がかかる作業がいくつもあります。今回は15名のボランティアスタッフがホール職員等と一緒にそれらの業務を行いました。それだけでなくホール内に舞台装置を建てる「仕込み」作業と、公演終了後に片付ける「バラシ」作業にも加わって、いわゆる裏方仕事も一緒に行いました。
 一般的に公共ホールでは公演の際、裏方の仕込み・バラシだけでなく、大半の業務をホール職員や専門の舞台スタッフが担当します。でもこのラディアンではホール主催の催し物の際、もぎり、プログラム配布、ドア係、ロビーでの物販、アンケート回収など、接客サービスの大半をホールのボランティアスタッフが受け持つのが特徴。カメラが得意なスタッフは公演の記録撮影を担当し、数名の女性スタッフが近隣から花をもらってきてロビーや楽屋に飾るなど、それぞれの得意分野で力を発揮する姿も見られます。
ラディアンとボランティアスタッフの関係の始まりとその極意
 ではどのようにしてこのボランティアスタッフが誕生したのでしょうか。ラディアンは二宮町の生涯学習や文化振興の拠点として、平成12年(2000年)に図書館との一体施設として開館しました。それに先立ち、町の生涯学習課が主催する生涯学習ボランティア活動のひとつとして、新設ホールでの会場案内や場内設営スタッフをするグループが募集され、登録した約20名のボランティアが、ホールの完成とともに活動を開始しました。月1回の例会で次の催し物の役割分担やホール職員との意見交換をし、時には防災訓練にも参加しながら活動を続けています。
「いちばん大切なことは、ボランティアとホールとのスタッフ同士の信頼関係です」
ラディアン外観  「ボランティアスタッフ一人ひとりの性格まで理解して細かく対応する必要があります」とラディアンでボランティアのとりまとめをしている職員の山岸友子さんは言います。「義務感を押し付けても長続きしません。ホールからお願いしたい業務を丁寧に説明したり、公演後のボランティアからの意見に耳を傾けたりして、時間をかけて対等に付き合って、ようやく信頼関係ができ上がるのです」。
 ラディアンを管理・運営している二宮町文化施設等振興協会事務局長の山口眞弘さんは「山岸さんの細やかな気遣いがなかったらうまくいかなかったかも」と言います。ホールの客席が502席に対し、二宮町民を中心とした約20名のボランティアという規模が職員の目が届くちょうどいい範囲なのだとも。時にはボランティアスタッフにチケットの販売促進に協力してもらうこともあるそうです。「来るものは拒まず、去るものは追わず、の精神でないとボランティア組織は続けていけません」と山口さん。「予算の関係で専門のスタッフにでなく、ボランティアに全面的にお願いすることが多いですが、これにより施設全体が活性化していきますね」。
 二宮町ラディアンでのボランティア活動は、県内でも先進的な公共ホールの取り組みとして今後も注目してきたいですね!
二宮町生涯学習センター「ラディアン」の催し物はホームページでご覧いただけます。
http://www.town.ninomiya.kanagawa.jp/kurasi/sisetu/radiant/index.html
二宮町の団体・サークル・ボランティア情報はこちらから。
http://www.town.ninomiya.kanagawa.jp/kyouiku/syogaigakusyu/yokaguid.html

取材協力:二宮町生涯学習センター「ラディアン」 取材・執筆:編集部

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