かながわアートプレス
Nov.2009
クリエーターズヴォイス
「とにかく来て、聴いてみて!」
バロック音楽の魅力を知りたければ、聴いてみるしかない!
エルヴェ・ニケさんの写真1
指揮者

エルヴェ・ニケ

『水車小屋の娘』『バヤゼット』『オルフェオ』と好評が続く、音楽堂バロック・オペラ。
今回は、2008年の来日公演で大喝采を巻き起こした鬼才、エルヴェ・ニケとル・コンセール・スピリテュエルが登場。ヨーロッパで人気のレパートリー、パーセル作曲のセミ・オペラ『アーサー王』を上演します。
ニケさんがバロック音楽に興味をもたれたきっかけは?
 十代半ばにクラヴサン(チェンバロ)の音を聴く機会があり、すぐに楽器のキットを買ってきて、続けざまに自分で7台のクラヴサンを組み立てました。そしてクラヴサンに関わるレパートリーを調べていくうちに、その時代の作曲の書法が、私が子どもの頃から学校で学んできた知識と、ひとつひとつリンクしていることに気づいたのです。ラテン語、修辞学、象徴法…。私の通った学校は、設立が14世紀、校舎は17世紀からというカトリックのリセ*でした。ロマン派の交響曲や現代音楽は、私には都会的で距離感があるのに対し、バロック音楽は、私自身を形成してきた教養、子ども時代、故郷の記憶に橋を架けてくれるような近しい存在だったのです。
※日本の高校に相当
バロック音楽を知らない人に、その魅力をどう説かれますか?
 説明はしません。「とにかく来て、聴いてみて!」と言いたい。なぜならバロック音楽は、聴いたことがなければいくら言葉を尽くしても、イメージすることのできない現象としての“音”そのものですから。だから“音”それ自体を聴くしかない。音程も音色も、エレクトリックな音楽と違うのはもちろんのこと、いわゆるクラシック音楽の響きとさえも違うのです。聴いて知るしかないのです!
 私の楽団、ル・コンセール・スピリテュエルの特徴も“音”それ自体にあります。新しい曲に取り組む際には、まずこの50年間に積み重ねられてきた音楽学上の研究成果を背景として、徹底的に作品を読み解きます。でもその後は、とことん“音”にこだわり、楽員の最後の一人が納得のいくまで“音”の洗い直しを行います。疑いようもなく“音”こそが、心を伝え情緒を方向づけるのです。私たちの“音”は、聴けば即「ああ、ル・コンセール・スピリテュエルだ!」とおわかりになるでしょう。
オペラのタイトルとなっている「アーサー王」という人物は、日本では円卓の騎士を従えた聖剣エクスカリバーの主、というくらいのイメージしかなくて、あまり馴染みがないのですが、ニケさんの言葉でアーサー王について教えてください。
 アーサー王について簡単には語りきれません。日本でも、歌舞伎や能の作品は知らなくても、そこに登場する英雄については誰もが知っている、ということがあるでしょう? アーサー王とはそういう人物なのです。ヨーロッパなら誰もが「アーサー王と聖杯」の物語を知っていて、それは半ば伝説、半ば史実であり、数世紀にわたり人々の想像世界を虜にしてきた物語として、文学、音楽、アニメや絵画など、あらゆるジャンルで扱われてきました。この壮大な英雄叙事詩の一部を語ることはできても、ここで全てを語り尽くすことは無理でしょう。
では、本作品の音楽面での魅力についてはいかがでしょうか?
エルヴェ・ニケさんの写真2 パーセルはイギリスの作曲家ですが、ことオペラに関するかぎり、音楽の構成要素はフランス70%、イギリス30%がベストだというのが私の仮説です(笑)。イギリス音楽をフランス独特の響きによって彩色すると、すばらしい味わいが生まれます。私が惹かれ、目指すのも、そのバランスによるパーセルの音楽であり“音”なのです。
 しかし、「アーサー王」は失われた作品でもあります。言い換えれば、皆さんは存在しない作品を鑑賞することになる(笑)。パーセルは17世紀のスター作曲家で、音楽と芝居で構成されている劇音楽「アーサー王」は、「ウェスト・サイド・ストーリー」のような大ヒット・ミュージカルに例えられます。しかし今では楽譜だけが存在し、芝居の台本は残っていないので、オリジナルの劇音楽全体の上演はできません。しかも残っている音楽各部は、それだけでも美しい傑作であるとはいえ、物語としてのつながりのない、いわば10のエピソードがならんでいるようなものなのです。
 というわけで、今回の音楽堂版で何が起こるのかまだわかりませんが、この作品の難しさは、台本が失われた状態で音楽をどう再編するかという点にあるでしょう。でも物語を知らないからといって心配はご無用! 美術館に出かけ、17〜18世紀絵画の展示室へ入っていき、様々な10点の名作絵画のただ中にたたずむ幸せ・・・。音楽堂での「アーサー王」が、皆さんにこのような喜びのひとときを提供できれば嬉しいかぎりです。
日本の聴衆に向けてメッセージをお願いします。
 この“知られざる名曲”「アーサー王」を、今回音楽堂でご紹介できることを大変光栄に思っています。皆さん、日本で起こるこの“大事件”に、ぜひご参加ください!

取材・文:大橋マリ

プロフィール
エルヴェ・ニケ写真エルヴェ・ニケ(指揮者)  Herve NIQUET
クラヴサン、オルガン、ピアノ、歌唱、作曲、合唱及びオーケストラ指揮を修学後、1980年にパリ・オペラ座の合唱指揮者に就任し、プロの音楽活動を本格的に開始。1987年ル・コンセール・スピリテュエルを結成以来、フランス音楽を中心に従来無名だったバロック音楽作品や宗教音楽、オペラの考証と再演に努めている。また、フランスやバロックの枠を超え、バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベルリオーズ、シューマン等の作品も指揮している。2008年10月、東京オペラシティで指揮したヘンデルの管弦楽組曲《水上の音楽》と《王宮の花火の音楽》の演奏は、緻密な歴史考証と大人数による演奏によって聴衆に大興奮をもたらす一大事件となった。今回が待望の日本初のオペラ指揮となる。
エルヴェ・ニケ&ル・コンセール・スピリテュエル
音楽堂バロック・オペラ
ヘンリー・パーセル作曲 セミ・オペラ「アーサー王」


■ 日時 : 2010年2月27日(土)・28日(日)
■ 時間 : 各日15:00 開演 ※14:30〜プレ・トーク
■ 会場 : 神奈川県立音楽堂
■ 音楽監督・指揮 : エルヴェ・ニケ
■ 演出 : 伊藤隆浩
■ 料金 : 全席指定
  S席 10,000円 A席 8,000円 B席 売切
  学生席 2,000円 特別ペア券(S) 売切
  音楽堂チケットセンター 045-263-2255
  (13:00〜17:00 月休、12/28〜1/4休)
  県民ホールチケットセンター 045-662-8866
  (10:00〜18:00 12/30〜1/4休)
  インターネットチケットセンター(24時間)
  http://www.kanagawa-arts.or.jp/tc
■ 主催 : 神奈川県立音楽堂
  (指定管理者:(財)神奈川芸術文化財団)

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