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January 2009
今回、僕がテーマにしたいことは、オペラという芸術は古臭い過去の遺産ではなく、今この同時代のエンターテイメントなんだということです。
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演出家
粟國 淳(あぐにじゅん)
昨年の『ばらの騎士』に続き、神奈川県民ホールの共同制作オペラ第二弾はプッチーニ作曲『トゥーランドット』。
冬季オリンピックのスケート競技でも有名になった名曲揃いのこの作品に挑むのは、天性のオペラ演出家、粟國淳氏です。 |
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今回僕がテーマにしたいのは、オペラというものが古臭い過去の遺産ではなく、今この同時代のエンターテイメントなんだということです。そもそも『トゥーランドット』の初演は1926年。現代は、プッチーニの時代からまだ百年も経っていないんですよ! この作品をスペクタクルとして華やかに見せるだけでなく、時代を超える人間の愛のドラマが実感できる舞台にしたいですね。人生の大事な時間を使って観劇することで、何かを感じたり考えたりすることは、いつの時代の人間にとっても必要なものだと思うんです。でも今の時代はテレビとかネットとかで便利になった反面、人間が真剣に遊ぶことが難しくなってきていますよね。ロックのコンサートも同じですけど、二度と繰り返せない、その一瞬でしか味わえない出来事に真剣に心を動かすこと。それが真に贅沢な遊びだと感じてもらえたらいいな、と思います。
『トゥーランドット』が初演された翌年に、既に映画の『メトロポリス』が公開されていたということは衝撃的なことだと思うんです。飛行機だとか自動車、電話が使われだした1920年代の社会のテンポ感は、必ずこの作品にも出て来ているはずです。だから映画の表現をオペラにミックスしてもおもしろいだろうなと。ラング監督だって当然オペラを見て自分の表現を磨いてきたはずですし、最先端のメカ好きだったプッチーニこそ、映画という新しいメディアには興味津々だったはずですから(笑)。でも実は、映画が得意とする壮大なスケール感の表出だとか、恋人同士の心理描写のカット割りだとかを、プッチーニは既に音楽ひとつで表現していたのですから、すごいですよね。
父がオペラ演出家(粟國安彦氏)で、母もオペラ団のコーラスでしたので、物心つく前から家の中はオペラ!オペラ!オペラ!でした(笑)。父の仕事や勉強の関係でイタリアで育ちましたが、やっぱり子どもは劇場には入れないんですよ。とはいえそこはおおらかなイタリアですから、何だかんだと3歳くらいから劇場に出入りして、ずっと生活の一部みたいにオペラがありました。でも実際に演出家になったきっかけは、僕が22歳の時に急に父が亡くなったことです。10代の頃は父の仕事が日本で非常に忙しく、あまり一緒に居る時間がなかったんです。だから直接口にはしませんでしたが、父子で「粟國さん!」とか呼び合って喧嘩しながらもいつか一緒に仕事できたらいいなって、そんなことを胸に僕は作曲やヴァイオリン、指揮法なんかをイタリアで勉強していたんです。そしたら、いきなり父がいなくなってしまい、運命に裏切られたようでショックでした。あまりのことにオペラも聴けない状態になり、一度は音楽を全部捨てることにしたんです。現地のブティックで働いたりもしたのですが、数年後にふとしたことで人に連れられて行ったゼッフィレッリ演出の『ラ・ボエーム』(プッチーニ作曲)を見た時、不思議とオペラを初めて見るような感覚になったんです! そして2幕が終わるころには、舞台上の出来事を形づくっていく演出家の仕事がしたいと心に決めていました。すぐに父の演出の先生だった方を訪ね勉強を開始し、それからは日本とイタリアで、仕事としてオペラの現場を重ねてきました。 演出家として父と同じ劇場で仕事ができるのは、やっぱりうれしいですよ。父の現場はそんなに見ていなかったので、比べられるプレッシャーはあまり感じないのですが、残された舞台の写真を見ると、何となく感覚が通じるのでやっぱり血は繋がっているのかなって思うことがあります。オペラは今でも亡き父親を感じられる大切な場所ですね。
もちろんいろんな世代に見に来ていただきたいのですが、今回の『トゥーランドット』こそぜひ若い世代に見てもらいたい。僕もイタリアの学校で小学5年生から『ラ・ジョコンダ』(ポンキエッリ作曲)のような本格的なオペラも見せられてきましたが、日本の若者もオペラが教養だとか考えないで、その舞台がおもしろいとかわくわくするとかで判断してほしい。
とにかく舞台芸術はみんなの財産です。多くの観客が来ることで、劇場や舞台そのものも変わるんですよ。DVDやネットの世界のきれいな映像を一人で見るのとは違い、知らないお客さんと一緒に拍手をしたり息を飲んだりすることで、客席にもコミュニケーションが生まれる瞬間を、この機会に体験してほしいと思います。
聞き手・文:編集部/写真:幸田 森
公演情報
G・プッチー二 歌劇「トゥーランドット」 全3幕(字幕付原語上演)
演出:粟國 淳指揮:沼尻竜典 トゥーランドット:横山恵子(28日)並河寿美(29日) カラフ:水口 聡(28日)福井 敬(29日) リュー:木下美穂子(28日)高橋 薫子(29日) ほか 合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル・二期会合唱団 児童合唱:赤い靴ジュニアコーラス 管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団 【日時】3月28日(土)・29日(日)両日共14:00開演
平成20年度文化庁舞台芸術共同制作公演【会場】神奈川県民ホール大ホール 【料金】SS16,000円(売切) S12,000円 A9,000円 B7,000円 C5,000円 D3,000円 Sペア 21,600円 学生2,000円 ※未就学児入場不可(有料託児有・要事前予約) 【チケット・お問い合わせ】 県民ホールチケットセンター TEL045-662-8866 インターネットチケットセンター(24時間受付)http://www.kanagawa-arts.or.jp/tc 【主催】神奈川県民ホール[指定管理者:(財)神奈川芸術文化財団] ※神奈川県民ホールホームページに映像などの特集あり |
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プロフィール
粟國 淳 Jun AGUNI 演出家 1967年、東京生まれ。1970年に父・粟國安彦のオペラ研鑽に同行するためイタリア・ローマに渡る。同地で義務教育を終え、サンタ・チェチーリア音楽院ヴァイオリンコースに入学、併せて指揮法を修める。1994年ローマ歌劇場公演に日本側スタッフとして参加、その業績によりローマ歌劇場演出部に迎えられた。1998年新国立劇場開場記念公演(F.ゼッフィレッリ演出)『アイーダ』を始めとして外来演出家のアシスタントを務め、1997年文化庁青少年芸術劇場・藤原歌劇団『愛の妙薬』で演出家デビュー。次第に活躍の場を欧米に広げる。若手演出家のなかでも群を抜いた活躍を見せ、将来わが国のオペラ界を担う人材として嘱望されている。 |