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July 2008
子どもたちには、判断力を持った心身健やかな人間に育ってほしいと思います。
そのための手助けをしたいと思い、創作活動を続けてきたのです。 |
絵本作家
かこ さとし
誰しも一度は目にしたことがある絵本「だるまちゃんシリーズ」の作者、かこさとしさん。神奈川近代文学館にて8月から行われる「だるまちゃんとてんぐちゃん」展を前に、たっぷりとお話を伺いました。
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戦後何年かしてすぐに、ロシアの子ども向け雑誌にマトリョーシカを主人公にした絵話が紹介されたんです。その頃の外国の子ども雑誌を見ると、各国の民族性・国柄がきちんと反映されている。これを日本の玩具でできないかなあと考えて、行き着いたところが「だるま」だったわけです。「達磨はインドの人じゃないか」と言うかもしれないけど、外形を真っ赤な色の郷土玩具にしたのは日本の職人さんのセンス。それに、これは私の企業秘密だけども、子どもさんていうのは「黄赤ベタ」が好きなんですよ。児童心理の研究なんかでも、黄色や赤でできたものは赤ちゃんも関心を持つんです。でもね、やっぱり手足を付けてあげました。右向いたり左向いたりじっとしてたりだけじゃ、ストーリーができませんからね(笑)。
もともと作家になろうと思っていたわけではなくて、始めは化学工場に勤めながら、川崎のセツルメント活動の子ども会で一緒になって遊んだり、お話を作って聞かせていたりしたんです。でもやり出した頃は、徹夜で作った自信作の紙芝居も子どもたちにはちっともウケなくて、聞いてる子が一人減り二人減り、みんな田んぼや多摩川にザリガニ釣りとか遊びに行ってしまう。気づいたら赤ちゃんを背負ったばあさんしか残ってなくて(笑)。だってそっちのほうが面白いですよね、ザリガニやトンボなんかは命がけで逃げるんだから(笑)。それでこっちも必死になって(!?)お話を作りました(!!)。毎回子どもたちとの真剣勝負。「下手だね」とか「つまんない」とか一言も言わずに居なくなっちゃうほんものの「批評家」に鍛えられました。そのおかげで強い個性を持つキャラクターを生み出すことができたんです。
恥ずかしい話なのであまり言わないのですが、子どもの時は家が貧しかったので、軍の学校に入って任官して、お国のため世のため役に立てるようになりたいと思っていました。でも近視が進み軍人にはなれず、二十歳の時に終戦を迎えて世の中が急に様変わりしてしまった。その時戦争の本質がようやくわかったという暗愚の至り。だから子どもたちには僕以上の年代の大人のような間違いを起こさないよう、判断力を持った心身健やかな人間に育ってほしい。そのために手助けをしたいと思ったんです。子どもたち自身が学んだり工夫したり判断している、遊びの世界を通してね。
子どもたちとかかわって半世紀、教育に携わる人間は必ず知っているべきことを、彼らは遊びを通してたくさん教えてくれました。僕はそのすばらしい遊びの数々を、絵図つきの論文みたいにまとめ、次の時代の子どもたちに恩返ししたいと思いました。今ようやくそれが全4巻の本になるところです。例えばじゃんけんの掛け声は日本中に色々あるんですよ。「モンチッチ」とか「それいけヒューマ」とか「グリコ」とかね、その時代時代に流行っていた言葉から子どもたちが選んだんです。センスが良い言葉は残るし、つまらなければ消えてしまう。有名かどうかは関係なく、子どもの心の琴線に響くものが自然に選択されちゃんと残る。子どもの伝承力はすごいです! しかも韻を踏むとか詩人のような文学性まである。 それに子どもの世界では昔っから「共生」だったんですよ。ヨチヨチの弟や妹がいても、排除していたら仲間が減って遊びにならないから一緒に遊ぶ。石蹴りでもチビ用の線を作ってあげたりと、違った力、違った年齢の子と一緒に遊ぶ努力を自然としているんです。大人の世界は勝負だから弱者は排除するけど、子どもの世界はただの勝ち負けだけじゃない。どうしたら共に遊ぶことが成り立つかをちゃんと考えて工夫して、鬼ごっこだって何だって楽しむんです。
ええ。公園で子どもが騒いでいると「うるさい!」と怒る大人までいる。子どもたちが遊びを通じて習得する工夫、発見、選択、その力が失われた時、形は生きていたとしても、子どもの本質は死んでしまうと思うんです。今の日本の子どもたちはなかなか真に育まれる状況にない。そんな社会の将来を思うと恐ろしい気がします。
貴重な原画やかこさんの幼少からのエピソードも紹介されます。
これまで絵だけの展覧会はあったけれど、さすが近代文学館ですね、作者が何を思いついたのか、何でこんなことを書くに至ったのか、思想とか精神を生み出す人間的な面を取り上げてくださる。それは恥ずかしい一面を見せることになってしまうけれど(笑)、ぜひ大いに私自身を掘り起こしていただきたい。
聞き手・文 : 編集部/取材協力:神奈川近代文学館/写真:幸田 森
公演情報
神奈川近代文学館<企画展> かこさとし「だるまちゃんとてんぐちゃん」展 ●会 期 8月9日(土)〜9月28日(日) ●休館日 月曜日(9/15は開館) ●会 場 神奈川近代文学館 第3展示室 みなとみらい線「元町・中華街駅」下車徒歩8分 横浜市中区山手町110 045-622-6666 ●観覧料 大人400円 学生200円 高校生以下、65歳以上は無料。 ●開館時間 9:30〜17:00(入場は16:30まで) ◆記念講演会 講師:かこさとし氏 「あそびのはなし えほんのはなし かがくのはなし」 8月24日(日)13:30 から(定員220名・料金800円・要申込) |
プロフィールかこ さとし 絵本作家・工学博士・技術士 1926年福井県生まれ。日本を代表する絵本作家。東京大学工学部卒業。民間化学会社勤務のかたわら教育文化活動に従事。1959年「だむのおじさんたち」(福音館書店)を発表し、絵本作家としてスタート。1973年に科学技術と教育文化にわたるコンサルタントとして独立し、出版・放送の分野で幅広く活動。お話絵本から自然科学の知識絵本まで幅広く手がけ、作品数は約500点に及ぶ。代表作に「だるまちゃんとてんぐちゃん」「からすのパンやさん」など。近作に「かこさとし伝承遊び考(全4巻)」(小峰書店)。藤沢市在住。 |