かながわアートプレス
March 2008
クリエーターズヴォイス
自分がその場で刺激を受けて、いちばん面白い音楽をつくっていく。
ぼくにとってその究極の相手がオーケストラ。
これと戦いたいというのは、武芸者として当然の心得ですね(笑)。
山下洋輔さんの写真1
ジャズピアニスト

山下洋輔

昨年、『ラプソディ・イン・ブルー』で県立音楽堂を沸かせた名ジャズ・ピアニストが、同じガーシュインの名作『ピアノ協奏曲へ調』に初挑戦。佐渡裕指揮東京フィルという強力なパートナー(好敵手?)を得て、「唯一の機会」に臨む山下洋輔さんに、作品の聴きどころなどお話を聞きました。
昨年の金聖響指揮神奈川フィルとの共演に続いて、「クラシックなジャズナイト」で音楽堂に再来襲されますが、歴史あるこのホールの響きと客席の印象はいかがですか?
 演奏する者としてはやりやすいし、後味はいつもすごくいいですね。いまも少し弾いてみて、こんなに良かったのかと思いました。音楽堂はぼくにとってはもう最高に良い因縁の場所で、ここで最初に『ラプソディ・イン・ブルー』をやったのが10年前かな。忘れもしない1998年10月7日、横浜ベイスターズ優勝の日(笑)。演奏して楽屋に戻ったら、みんなが方々で騒いでいて、いっしょになってわあわあ喜んだところですから。そして去年、金聖響さんと、もう一度同じ曲で帰ってこられたんですね。ずっと葉山町民でしたから、もちろんベイスターズ・ファンだし、神奈川・横浜といえば絶対のシンパシーがあります。

初めてガーシュインの名作『ピアノ協奏曲ヘ調』を演奏されますが、オーケストラは新春に自作の協奏曲『エクスプローラー』をともに初演した佐渡裕指揮東京フィルです。意気ごみをお聞かせください。
山下洋輔さんの写真2  東京フィルは、2000年にピアノ協奏曲第1番を初演してもらっているオーケストラだし、佐渡さんはぼくのことをすみからすみまでわかってくれている。年明けに会ったときも「洋輔さんは私がいなきゃだめだと思って飛んできた」と言ってくれて、ほんとうに頼もしいんです。変なことやるのを先刻ご承知でやっていただけると思ってます。ヘ調のコンチェルトはたいへんな曲だけれど、《山下洋輔ヴァージョン》と明記してもらったので、もうお墨つきをもらったようなもので(笑)、何とかなると思っています。なるべく原曲を壊さずにやりますけれど、譜面をよくみていくと、ここはオーケストラを伴奏に即興演奏を展開してもよいという箇所がいくつかあって、アドリブとも共存できそうです。

《山下洋輔ヴァージョン》に今から期待が膨らみますが、それはやはり予測不能なものですか?
 へへへへへ(笑)。いまこの時点の予測は、ここを拡大してカデンツァでソロをやらせてもらおう、とかありますけど、オケを意味もなくカットすることは一切しません。作曲家で神奈川芸術文化財団芸術総監督の一柳慧先生に昨年の『ラプソディ・イン・ブルー』を聴いていただいて、その直後にこの『へ調』をやれと言われたんだけど、ちょっとそれは買いかぶりだと思って逃げてたんです(笑)。でも、こっちのほうが名曲だとおっしゃっていて、たしかに譜面を読み始めるとすごい。『ラプソディ・イン・ブルー』は発想を繋げていくスタイルだけれど、この曲はメロディーがガーシュインならではの魅力に溢れているだけでなく、全体が有機的に組み合わさって、完全に古典的な音楽形式で書かれている。第3楽章にまで第1楽章のメロディーが出てきてクライマックスを作るなんてこともやっているし、きちんと構成感があって、そうとう心血を注ぎこんだんだなという気がします。

ピアノ協奏曲を第3番まで書かれた作曲家としては、この作品をどうみられますか?
 ジャズ・ミュージシャンである自分がその場で刺激を受けて、いちばん面白い音楽をつくっていく。あくまで自分のパートはほとんど即興という音楽なんですね、ぼくがつくっているのは。それで、いろいろな演奏相手とやるのが楽しいんですけれど、その究極の相手がオーケストラ。こんなものすごい装置が音楽のなかにあるわけですから、それと戦ってみたいというのは、武芸者として当然ですね(笑)。『ラプソディ・イン・ブルー』を何度も演奏してきたせいで、ガーシュインの作品には自然と影響されていますね。なんでこんなに似るんだろう、自分もこういうふうに行きたい、というくらい同じような考えをしているところがたくさんあります。ガーシュインには、「ジャズの和音についてものすごく先駆的なことをやっていますね」と尊敬の言葉をかけたいです。この作品はみるたびに発見がある。だから今でも新しいものなんです。

では、山下洋輔さんにとってのオーケストラとの音楽づくりというのは、今回の『ピアノ協奏曲ヘ調』への挑戦から、今後どんなふうに広がっていくと予感されますか?
 そうだなあ、この曲はたぶん一回きりでしょう(笑)。『ラプソディ・イン・ブルー』のときも同じこと言っていたんだけどね。「これはもう唯一の機会ですから(笑)、みなさんおいでください!」と言いたいな。
聞き手・文:青澤隆明 写真:幸田 森(神奈川県立音楽堂にて撮影)

公演情報
クラシックなジャズナイトin音楽堂
●出演
 山下洋輔(ピアノ)佐渡裕(指揮)
 東京フィルハーモニー交響楽団
●プログラム
 バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番プレリュード《ピアノ版》
 バーンスタイン:「キャンディード」序曲
 ガーシュイン:ピアノ協奏曲へ調《山下洋輔ヴァージョン》
●日時
 4月25日(金)19:00開演(18:00開場)
●会場
 神奈川県立音楽堂
●料金
 全席売切(一般4,500円 学生席2,000円 特別ペア券8,000円)
●チケット・お問い合せ:
 県民ホールチケットセンター 電話045-662-8866
 音楽堂チケットセンター 電話045-263-2255
 インターネットチケットセンター(24時間受付)
   ※未就学児童の入場はご遠慮いただいております。
 ※開演前にホワイエで若手演奏家によるジャズの生 演奏を予定。
山下洋輔さんの写真3 プロフィール
山下 洋輔(ピアノ)
Yosuke YAMASHITA
1969年、山下洋輔トリオを結成、フリー・フォームのエネルギッシュな演奏でジャズ界に大きな衝撃を与える。内外の一流ジャズ・アーティストとはもとより、和太鼓やオーケストラとの共演など活動の幅を広げる。06年2月CD『ミスティック・レイヤー』、11月特別編成のビッグバンドによるDVD『ラプソディ・イン・ブルー』リリースなど精力的に活動。07年6月「クラシックな休日をin音楽堂」公演での『ラプソディ・イン・ブルー』は聴衆の大喝采を浴びた。08年1月佐渡裕指揮・東京フィルとの共演で新作コンチェルトを初演。演奏活動のかたわら、著書も多数。

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