かながわアートプレス
July 2007
クリエーターズヴォイス
ファンタジーは起きたまま夢を見せるようなものですから、
つじつまの合わないおかしなことがあると、読者は夢から覚めてしまいます。
ゲスト写真1
児童文学作家

佐藤さとる

「コロボックル物語」シリーズによって、日本児童文学ではじめてファンタジーを拓いた児童文学作家・佐藤さとるさん。
8月4日から神奈川近代文学館で開催される展覧会を前に、お話を聞きました。
横須賀に生まれ、横浜で長く暮らしておられますが、
この二つの地が佐藤さんの創作活動に与えた影響はありますか。
 小学校5年生の時にここから少し離れた同じ町内(戸塚区)に転校してきたんです。「コロボックル物語」を読むと解りますが、小さい港町から大きい港町へ引っ越したりする、あれは横須賀と横浜をイメージしています。5巻で登場人物の女の子が司書になるのだけれど「その図書館は野毛山の図書館ではないか」と言われたこともあります。その通りです。
 桜木町の駅から市電で中学(旧制)に通っていたのですが、帰りは歩いて野毛の図書館まで行きました。学校帰りに寄り道して叱られないのは図書館ぐらいでしたから。なぜ歩いたかというと、節約したお金で図書館の食堂のコーヒーが飲めた。そのコーヒーにトーストが1枚ついていて、それが食べたいものだから(笑)。図書館でも、童話の本は少なかった。読みたくても読めない。だったら自分で書いたらどうか、と思ったのです。いくら厚い本でも、いつかは終わってしまう。それがいやで、読んでも読んでも終わらない、長い話が書きたかったんですね。

佐藤さんは日本児童文学で初めてファンタジーを拓いたとされています。佐藤さんにとってのファンタジーとは、また創作の極意とはなんでしょうか。
 私にとってファンタジーとは「あり得ないことをあり得たように書く」ことです。空想の世界はなんでもありだけれども、何かしら統一されたルールがあり、これをきちっと守らないと成り立たない。例えば「ある少年が犬と話ができる」と決めたら、「他人がいる時にも話ができるのか」「犬と主人公だけの時、話ができるのか」といった細則を決め、作者は最後までそれを通さなくてはいけない。途中でルールをゆるめると、話に締まりがなくなって、荒唐無稽になります。ルールは単純なほど書きにくく、難しい。しかし、それで物語はしっかりする。起きたまま夢を見せるようなものですから、つじつまの合わないおかしなことがあると、読者は夢から覚めてしまいます。
 また、ファンタジーは日常と結びついていないとつまらない。人間の頭の中にある「日常」と「不思議なこと」とが違和感なく混在するとおもしろいのです。
 「不思議なこと」というのは、作品を書いていかないと思いつかない。思いついて自分で驚く。始めから考えておいて書くと、ろくな話になりません。作者が驚いているぐらいですから、読者は意表をつかれるでしょう。


現在最も力を注がれていることはなんですか?
 自分の書いた作品について、なぜ書いたか、ということを忘れないうちに書きとめておきたい。例えば子どもの頃に鳥の巣箱を作ったんですが、それを架ける大きな木がない。仕様がなくて隣の家にあったひょろひょろの桃の木に架けたら、とうとう何も入らなかった。とっても残念で。そこから「大きな木がほしい」という作品を書いたんです。こうした作品の周辺を書いておきたいです。

今回の展覧会は、佐藤さんの初めての展覧会ということで、初公開資料も多いですね。
 展覧会をやってもらえるとは思いませんでしたね。もっといろんなものをとっておけば良かった(笑)。「もうわるいことをいたしません」と書いた手形は、うそをついてしかられて、半べそかきながら書いたんですよ。「手のひら島はどこにある」は、この手形を基にした話で「だれも知らない小さな国」の前身となる話です。展覧会がどうなるのか自分でも楽しみにしています。来た人も楽しんでくれれば良いのですが。
 児童文学というと子どもの文学のように聞こえますが、本当は「8歳から80歳までの」文学。私の本をハードカバーで揃えると数千円かかりますが、「大人買いしちゃった」なんて手紙もきていますよ。  

(横浜・戸塚の自宅にて。聞き手:近代文学館 写真:幸田 森)

公演情報
企画展「佐藤さとる コロボックル物語展」
−だれも知らない小さな国−
●会 期 8月4日(土)〜9月30日(日)
●休館日 月曜(9/17、9/24は開館)
●会 場 神奈川近代文学館 展示館
     〒231-0862 横浜市中区山手町110
     電話045-622-6666
●観覧料 大人400円 20歳未満及び学生200円
     高校生以下と65歳以上は無料
●開館時間 9:30〜17:00(入館は16:30まで)
佐藤さとるの幼年時代と作品発表までをたどる文学資料約100点、また村上勉によるコロボックル物語ほか佐藤さとる作品の挿絵原画約70点を展示します。
ゲストプロファイル写真 プロフィール
佐藤さとる(児童文学作家)
Satoru SATO
1928年(昭和3)横須賀生まれ。関東学院工専建築科在学中から童話を書き始め、49年横浜在住だった児童文学作家・平塚武二に師事。50年、神戸淳吉、長崎源之助、いぬいとみこらと同人誌「豆の木」を発刊した。59年私家版「だれも知らない小さな国」を自費出版、同年講談社より出版されて毎日出版文化賞、児童文学者協会新人賞、国際アンデルセン賞国内賞受賞。67年「おばあさんのひこうき」で厚生大臣賞、野間児童文芸賞ほか受賞。「だれも知らない小さな国」を含むコロボックル物語シリーズは、戦後初の本格的ファンタジーとして幅広い世代に根強い人気があるベストセラー。全集に『佐藤さとる全集』全12巻(講談社)、『佐藤さとるファンタジー全集』全16巻(講談社)。2007年7月『本朝奇談(にほんふしぎばなし)天狗童子』で赤い鳥文学賞受賞が決定している。

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