かながわアートプレス
March 2007
クリエーターズヴォイス
よくいうのは「楽譜に正確だからといって正しい演奏とは限らない」ということで、
その音楽が何を要求しているかを感じることが大切です。
ゲスト写真1
指揮者

ハンス=マルティン
シュナイト

幅広い音楽の素養と正統的な解釈で知られるハンス=マルティン・シュナイト。4月から音楽監督に就任する神奈川フィルハーモニー管弦楽団について、話を聞いた。
音楽堂でのシュナイト・シリーズも2期目に入り、4月からは音楽監督に就任されます。
 神奈川フィルは、私にとっていまだ完成されていない魅力を持っています。私は音楽の実演と教育の2つの分野で働いてきて、音楽を教える仕事は24歳から続けています。このオーケストラは、とてもいいものをもっていて可能性を感じます。また、日本のオーケストラに全般的にいえることですが、才能豊かで、学ぼうとする意識が強いことも魅力です。
 シュナイト・シリーズをはじめる際に事務局の方と相談して決めたのは、どの楽曲をやる場合にもソリストはすべてオーケストラの中から出しましょう、ということでした。それが大きな実りをもたらしています。特に弦のパートの発展は素晴らしいものがあります。第1シリーズの「古典派の偉人たち」、第2シリーズの「フィルハーモニーの原点」はともに、オーケストラの技術向上という教育的な部分でもよいプログラムですが、芸術的な側面からもぜひとりあげたい楽曲で構成してあります。
 日本人は、オーケストラであれ、演奏者であれ、感情を外に出せない人が多いのですが、これを外に出すことが大事です。そのためには、古典派とロマン派を学ぶのがとてもよい勉強になります。モーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン、ブラームス・・・去年の11月に、私が教えている東京藝術大学のフィルハーモニアがシューマンの合唱曲のみのプログラムに挑戦しました。これは典型的なドイツ・ロマン派の楽曲ですが、一瞬一瞬変わっていく曲に感情をこめて演奏するのが難しく、その分、学ぶことも大きいのです。
 たとえばブラームスの作品はオーケストラにとって、全てのものが学べる楽曲です。楽章ごとに異なる表現の幅広さ、美しい音で音楽を「歌う」ということ、マルカートを強調するのではなく響かせるということ、そしてよく言うのは呼吸をする(器楽の演奏者であっても)ということです。音楽では歌が基本です。すべて呼吸とともに演奏されなければなりません。もちろん指揮者も同様です。呼吸のできていない指揮者や演奏家は、身体を全く動かさずに手先だけ動かしてしまう。これでは音楽は伝わりません。よくいうのは「楽譜に正確だからといって正しい演奏とは限らない」ということで、同じフォルテの表記でも迫力ある大きな音の場合もあるし、なめらかな大きな音というものもある。その音楽が何を要求しているかを感じることが大切です。

演奏家にとって必要な教養とはなんでしょう。
ゲスト写真3  知識ばかりを詰め込むと、本当に才能のある奏者がつぶれてしまうこともありますから、その質問はちょっと危険です。学生には感情の振り幅を豊かにするために他の人のコンサートをたくさん見て、聴きなさいと言っています。その中から自分のスタイルをみつけていくのです。指揮者でもそうですが、小柄で太った人が、背の高いやせた指揮者と同じことをしようとしても出来ないのです。その人にあったスタイルは、みな違います。あとは博物館や美術館に行き、絵を見ることも大事です。私は日本の北斎も大好きですよ。他にはいろいろな食事を楽しむこと、人を愛すること、感動することも大事です。


神奈川フィルの公演の聴きどころは。
 4月の音楽堂シリーズでは、ヴィヴァルディの「四季」でチェンバロも弾きます。最後の和音を弾いてから立ち上がって指揮をして・・・と忙しいですね。県立音楽堂は、見た目はそれほど美しくはありませんが(笑)、日本のどこのホールよりも音響がいいですね。ドイツでは新しくできたホールでよい音響のところを探すのは難しいですが、日本人は木材の使い方をよく知っているのでしょう。
 定期演奏会では、ブラームスだけのプログラムもあれば、シューベルトの「未完成交響曲」、リヒャルト・シュトラウスの「4つの最後の歌」「死と変容」といった多様な作品を演奏することもあります。ミサ曲でもバッハではなく、同じくらい信仰の厚かったブルックナーのものをとりあげたり・・・。特にブルックナーは、オーストリアやバイエルン地方以外ではあまり評価されておらず、日本でも演奏されることが少ないので、とりあげるのはまさに伝道師的な仕事になります。彼の楽曲はカソリックの世界の完成された閉じた球のようなものなので、それを開かせて、聴衆に理解させるのは難しいのです。
 神奈川フィルにはとにかく上手に、どんな作曲家の曲でも、まんべんなくうまく弾けるオールラウンダーになって欲しいです。最近はオーケストラの団員の表情が幸福そうなものになってきました。リラックスした関係が築けていると思います。私の伝えたいことが、大分浸透してきて、血肉となって身についてきていると感じます。ぜひ期待してください。  
(写真:幸田 森)

公演情報
神奈川県立音楽堂
指揮:ハンス=マルティン・シュナイト
●2007年4月14日(土) 15:00
 シュナイト音楽堂シリーズVol.XI
 「フィルハーモニーの原点」
 モーツァルト/セレナード第10番「グラン・パルティータ」
 ヴィヴァルディ/「四季」
 ヴァイオリン独奏 : 石田泰尚(神奈川フィルソロ・コンサートマスター)
●2007年6月2日(土) 15:00
 シュナイト音楽堂シリーズVol.XII
 「フィルハーモニーの原点」
 ベートーヴェン/交響曲第1番
 ストラヴィンスキー/組曲「プルチネルラ」 ほか
 全席指定:S4,000円 A3,000円 学生(Aのみ)1,000円
チケットがお得になる定期会員を募集中。
詳細は神奈川フィル・チケットサービス(045-226-5107)または
楽団ホームページhttp://www.kanaphil.com参照
ゲストプロファイル写真 プロフィール
ハンス=マルティン・シュナイト Hanns-Martin Schneidt
(神奈川フィルハーモニー管弦楽団 首席客演指揮者)
1930年生まれ。ミュンヘン音楽大学で指揮、作曲、オルガン、音楽学を学ぶ。1960年、ベルリン・フィルにデビュー。以後、ミュンヘン・フィル、バンベルク交響楽団などドイツの主要オーケストラを指揮し、1963年ヴッパータール市立劇場音楽総監督に就任。1984年ミュンヘン・バッハ合唱団・管弦楽団の芸術監督に就任するとともに、バイエルン国立歌劇場常任指揮者に就任。ベルリン国立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラなどオペラの分野でも活躍。2001年10月東京藝術大学指揮科客員教授に就任。2002年より神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者、2007年4月には同音楽監督に就任。

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